年頭の辞  九州運輸局長 岩月理浩 

新春を迎え、謹んで御挨拶を申し上げます。

 昨年の「令和2年7月豪雨」により被災された皆様に、心よりお見舞いを申し上げます。熊本地震や九州北部豪雨からの復旧・復興が着実に進む中での災害発生となりましたが、全ての被災地が一日でも早く日常を取り戻せるよう、九州運輸局の職員一同、全力で取り組んでまいります。
 また、新型コロナウイルス感染症の全国的な感染拡大により、九州の経済にも大きな影響が及んでおります。特に、運輸業・観光業については、感染拡大に伴う外出自粛、人々の生活様式の変化等により利用者が減少し、経営に多大な影響を及ぼしています。これまで九州運輸局としましては、関係団体を通じて雇用調整助成金や持続化給付金を始めとする各種支援制度の活用を促すとともに、各県・市町村に対して地方創生臨時交付金の活用等により関係事業者に支援が行き届くよう、強く働きかけてまいりました。さらに、各事業者の最新の状況について調査することで、九州の関係業界の状況を正しく把握して本省における検討に役立てるとともに、その窮状や事業者の対策状況を積極的に公表することにより、世論の正しい理解に結び付けることを目指してまいりました。
 今後も引き続き、関係事業者の経営状況や関係業界の動向に注視するとともに、各事業者の皆様の経営の継続に向けて必要な助言、感染拡大防止対策への補助等を行ってまいります。

 さて、年頭に当たり、九州の運輸・観光行政に関する抱負を述べさせていただきます。

 まず、地域公共交通の維持・活性化について、着実に取り組んでまいります。
九州においても、人口減少・少子高齢化や自家用車への依存等により、特に地方部における鉄道、バス等の利用者が減少していますが、通勤・通学手段の確保、免許返納後の高齢者の移動手段の確保等の観点から、地域公共交通の維持・活性化は不可欠であると考えております。折しも、昨年末に地域公共交通活性化再生法の改正法が施行され、市町村による地域公共交通に関する計画の作成が努力義務化されました。これにより、各地域の交通に関係する全ての者が、新たな計画の下で今一度、協働・連携することが求められることになります。九州運輸局としましても、地域公共交通の維持・活性化に向けて取り組む地方自治体等を全力でサポートしてまいります。
 また、地域公共交通の維持・活性化のためには、交通事業者における担い手の確保が重要です。九州運輸局では昨年開設した「九州運輸局人材確保・育成対策応援サイト」を基軸として、関係行政機関等との連携を強化し、関係業界に関する積極的な情報発信を行ってまいります。
 交通分野におけるバリアフリー施策については、共生社会の実現に向けて、九州運輸局管内においても「心のバリアフリー」や「ユニバーサルデザインの街づくり」に関する取組として、東京オリンピック・パラリンピック競技大会のホストタウンの支援、小学生等を対象としたバリアフリー教室の開催等を実施してまいります。

 次に、九州における観光の発展を推進してまいります。

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、インバウンドの増加等により好調であった我が国の観光の状況を一変させています。国土交通省としましては、社会経済活動と感染拡大防止の両立を図るため、「新たな旅のスタイル」を普及・定着させることを目的とする「Go Toトラベル事業」に取り組んでまいりました。本年も引き続き、観光施設や宿泊施設での感染症対策の強化など、ウィズ・コロナ時代における新たな対応を継続することが重要と考えています。
 コロナ禍の中では、テレワークの進展とともに、仕事をしつつ余暇を楽しむワーケーションやブレジャーといった観光の新たな形態も注目されるようになりました。感染防止対策やワークライフバランスの観点から、九州運輸局としても、新たな観光ニーズに則した施策を検討してまいります。
 また、コロナ収束後のインバウンド回復期に向けた取組も重要です。観光プロモーションを強化するとともに、滞在日数の長期化、消費単価の増加、地域への裨益等を目指して、アドベンチャーツーリズム、夜間・早朝時間帯のイベント(ナイトタイムの活用)、地域文化や生活を経験する体験型観光など、観光地域づくり法人(DMO)等による九州域内の観光資源開発の取組も引き続き支援してまいります。

 続いて、運輸の各事業分野については、次のとおり取り組みます。

 鉄軌道事業については、自然災害の激甚化を背景に、昨年も令和2年7月豪雨により各地の鉄道施設で甚大な被害が発生しました。現在もなお、一部区間で運転を見合わせていることから、関係自治体や鉄道事業者としっかり議論し、どのような支援が可能かについて検討してまいります。また、災害時の計画運休に際しては、運行情報の発信の在り方について鉄軌道各社に適切な対応を促してまいります。

 バス事業については、生活に必要な路線の維持・確保に向けて補助等を行うとともに、路線の再編等による運行の効率化・生産性の向上を図る事業者を引き続き支援してまいります。さらに、利用者利便の向上に資するMaaS、AIを活用したオンデマンドバスなどの新たなモビリティサービスの導入を含め、先進的な取組を進める事業者に対し、必要な助言等を行ってまいります。

 また、タクシー事業については、年々深刻化する労働力不足の現状を改善するために、労働条件の向上に取り組んでいただくよう促すとともに、改正タクシー特措法に基づく事業の適正化、利用客の利便性向上やタクシー需要の喚起につながる取組の活性化、経営環境の改善等を図ってまいります。

 トラック事業については、長時間労働や運転者不足の深刻化を踏まえ、業界全体の働き方改革の動きを促進するとともに、昨年4月に告示された標準的な運賃の浸透を図り、物流の効率化・生産性の向上を図ってまいります。特に、九州各県で開催する「トラック輸送における取引環境・労働時間改善地方協議会」において、取引環境の適正化に向けたガイドラインやホワイト物流推進運動を幅広く展開し、長時間労働の抑制・取引環境の改善等に取り組んでまいります。

 また、物流分野全体としては、局内に設置した「物流効率化政策推進本部」を中心に、九州の地域特性を活かしつつ、モーダルシフトの推進や輸送網の集約、共同輸配送、貨客混載の取組の推進など、物流の効率化・省力化に向けた取組を支援してまいります。
 併せて、自動車運送事業の各モードに共通した、労働条件や労働環境を改善し、運転者を確保・育成するための新たな認証制度である「働きやすい職場認証制度」について、認証実施団体と連携して周知に努めてまいります。

 旅客航路事業は、国民生活や産業活動に必要不可欠な社会基盤であるという認識の下、自治体を含めた関係者と連携し、航路利用の促進や経営改善に向けた取組を進めてまいります。

 内航海運業については、船員不足・高齢化、働き方改革への対応や荷主等との取引環境の改善など様々な課題に直面していることを踏まえ、船員の労働環境の改善や船舶管理会社の活用を含む多様な事業形態に対応した仕組みづくりなど、内航海運の安定的輸送の確保を図るべく必要な対策を講じてまいります。

 港湾運送事業については、九州、山口県西部の港湾が持つアジア主要都市への近接という優位性を活かして、地域の産業界と一体となり、物流におけるアジアのゲートウェイとして発展するよう努めてまいります。

 また、造船・舶用工業については、船舶の開発・建造から運航までの全工程で情報技術等の積極的な活用を目指す「海事生産性革命(i-Shipping)」と海事人材の確保・育成を両輪として、造船業の生産性向上を推進してまいります。特に後者に関しては、特定技能制度の活用により外国人材の受入れが進んでいますが、併せて、各地域の教育機関と連携して人材育成に取り組み、造船・舶用工業の円滑な人材確保に向け、尽力してまいります。

 最後に、各交通モードを支える基盤的な業務については、次のとおり取り組みます。

 交通事業者の事故防止については、より一層の安全対策を講じていただくよう関係事業者に促すとともに、保安監査や運輸安全マネジメント評価等を通じて、安全・安心な輸送の確保に取り組んでまいります。交通業界全体で飲酒運転や危険運転に関する規制の強化も強く求められており、関係事業者においては、より一層の安全対策を講じ、事故防止の推進をお願いしたいと思います。
 また、海上交通の安全確保については、関係法令等の動向も踏まえ、船舶検査、船員の海技資格・乗組体制の審査、運航管理監査等を的確に実施し、事故の防止に取り組むとともに、小型船の安全指導や各種講習会の実施を通じて事故防止に関する啓発活動を行ってまいります。外国船舶については、ポートステートコントロール(寄港国による監督)を関係各国と連携して適切に実施し、構造・設備、乗組員の配乗等が国際条約の基準を満たしていない船舶の排除に努めてまいります。

 自動車の検査・登録については、制度の適正な運用を図るとともに、自動車保有関係手続のワンストップサービス(OSS)の普及啓発に努めてまいります。また、自動車の適切な保守管理の推進、不正改造車の排除、自動ブレーキなど高度な先進技術に対応した自動車整備技術の高度化を推進してまいります。

 そして、万一の災害発生時においては、正確な情報を速やかに収集するため、いち早く職員を派遣するとともに、現地の情報や九州運輸局の対応状況・取組をホームページや各種SNSで発信してまいります。今後も職員の対応能力の向上や発信内容の充実に努め、災害発生時に迅速な対応ができるよう努めてまいります。

 以上のように、九州運輸局では「運輸と観光で九州の元気を創ります」をキャッチフレーズに、職員一丸となり、社会・経済情勢の動向に対応した課題、ニーズ等に対して的確に取り組んでまいる所存です。
結びに、新型コロナウイルス感染症の一刻も早い鎮静化、そして、九州の発展と皆様方の御健勝と御多幸をお祈りして、新年の御挨拶といたします。

2021年01月01日