九州運輸局長 年頭の辞
令和5年 年頭の辞
九州運輸局長 吉永 隆博
明けましておめでとうございます。令和4年12月20日付で九州運輸局長に就任しました。今回、念願が叶い九州勤務の機会を初めて得ました。九州は歴史があり風光明媚で観光資源にも恵まれた非常に元気な地域だと思います。新しい年をこの九州の地で迎えることができましたことを、大変慶ばしく思います。皆さんどうぞよろしくお願いいたします。
令和5年の年頭にあたり、九州運輸局の運輸・観光に対する取組について抱負を述べさせていただきます。
運輸・観光業界はここ数年、コロナ禍による大きな打撃を受けていましたが、昨年10月より開始された全国旅行支援や水際対策の緩和により観光の動きが活発になり本格的な回復の兆しが見えてきました。
九州では西九州新幹線の開業(9/23)や佐賀・長崎ディスティネーションキャンペーン(10/1~12/31)の効果もあり、九州経済調査協会が公表している宿泊稼働指数をみると、コロナ前を大きく上回る需要が生まれています。そうした前向きな効果は、公共交通でも表れており、運送収入についても10月時点で多くのモードがコロナ前の8割程度まで回復しております。
これからはコロナ禍で失われた需要を取り戻していく必要があります。政府でも物価高克服・経済再生実現に向けた予算として、総額約28兆円の令和4年度第2次補正予算が成立しており、九州運輸局でもこうした新たな予算も活用して需要の回復に向けた取組に対してしっかりと支援していきます。
特に観光については、ウィズコロナ・アフターコロナにおける「観光立国の復活」に向け動き始めており、コロナ禍で活力が失われてしまった地域の活性化を図るため、全国旅行支援等により国内需要を喚起しつつ、地域一体となった観光地・観光産業のリニューアル・高付加価値化により、持続的な形で地域の「稼ぐ力」を高める取組を強力に推進してまいります。あわせて、足元の円安の効果を活かし、インバウンドの本格的回復を見越し、特別な体験や期間限定の取組の創出など地方誘客・消費拡大に向けた観光コンテンツの磨き上げや受入環境の高度化に対し、支援してまいります。
国内への寄港が途絶えていた国際クルーズについては、政府の水際対策緩和を踏まえ、昨年11月にクルーズ関係団体よりガイドラインが公表され、寄港地港湾関係者との合意形成のもと、順次寄港が再開される見込みとなりました。安全・安心なクルーズ環境の整備を進め、地域との連携により九州各地へのクルーズ船の誘致促進を支援してまいります。
九州では、昨年9月に西九州新幹線が開業し、本年も7月に世界水泳福岡大会、10月にツール・ド・九州(サイクルロードレース)といった世界的なイベントの開催が予定されております。こうした千載一遇の機会を逃さず、その波及効果を九州全体でしっかりと取り込むことができるよう、地域の関係者の皆様と連携してまいります。
一方で、昨年は知床遊覧船による痛ましい事故がありました。改めてお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りし、ご遺族の皆様に対し謹んでお悔やみ申し上げるとともに、捜索中の方々の一日でも早い発見をお祈りします。このような事故を二度と起こしてはならない。そのことを固くお誓いした上で、安全で安心できる輸送環境の実現に向け、決意を新たに取り組んでいきます。
旅客航路事業の安全対策につきましては、知床遊覧船事故を受け設置された「事故対策検討委員会」において、昨年12月にとりまとめが行われた「旅客船の総合的な安全・安心対策」に基づき、措置可能なものから順次速やかに実施してまいりますとともに、対策を「重層的」に強化し、安全・安心な小型旅客船の実現に向けて、迅速かつ適切に取り組んでまいります。
鉄道分野については、毎年のように発生する大規模な自然災害によって九州各地の鉄道施設で甚大な被害が発生しており、現在もなお、一部区間で運転を見合わせています。復興に向けて関係者と協議を行うとともにできる限りの支援を行ってまいります。また、鉄道に関する安全意識の高揚と情報の共有化を目的に管内の事業者を対象とした保安連絡会議の開催などの取組をすすめます。
自動車分野については、「事業用自動車総合安全プラン2025」を踏まえ、依然として発生する飲酒運転や健康起因事故等への対策を進めるとともに、死者・重傷者数や各業態の特徴的な事故に対する削減目標の達成に向け関係機関と一丸となって取り組んでまいります。また、近年急速に進化・普及している自動運転技術に対応し、令和6年10月以降の継続検査からOBD(車載式故障診断装置)を活用した新たな自動車検査制度が本格運用となりますが、これが円滑かつ適正に開始できるよう準備を進めてまいります。
改めて今年度はコロナ禍からの回復が期待される年であります。しかしその一方で、コロナ以前からの課題が解決されたわけではありません。リモートワークの進展などニューノーマルが拡大、定着する中にあって、コロナ後も旅客需要が元の水準に戻ることはないという意見も多くあります。公共交通における利用者減少の問題は、コロナ禍によって加速度的に深刻化し、今すぐに対応せざるを得ない状況となりました。
このような状況を踏まえ、国土交通省では、昨年、専門家からなる有識者会議を立ち上げ、アフターコロナ時代の公共交通のあり方について議論を行っていました。九州運輸局においても、昨年8月に取りまとまった有識者会議からの提言を受けて、地域公共交通の再構築に向け、地方公共団体や交通事業者とも連携して取り組んでいるところです。
まずは各地域が戦略をもって公共交通の再構築に取り組んでいただけるよう、地域交通のマスタープランである地域公共交通計画の策定が各地で行われるよう取り組んでまいります。とりわけこれまで地域内で十分に議論されていなかった鉄道のあり方については、国の有識者会議から提言がなされています。提言では、「協議の場は「廃止ありき」、「存続ありき」という前提を置かず、利用者目線で協議すべき」「一定の輸送需要を下回っているという理由だけで鉄道の存廃を画一的に判断すべきではなく、地域ごとに丁寧に見て行く必要がある」とされており、まずは関係者が同じテーブルに座って、現状についての認識の共有を図るところから始めることが期待されます。九州運輸局においても、未来志向で地域における公共交通の議論が加速するよう、地方公共団体や交通事業者とも連携して取り組んでまいります。
また、九州では、九州一体となった広域でのMaaS(九州MaaS)の導入に向けた議論や熊本・長崎でのバス共同経営の実施など、全国的にも類を見ない先進的な取組も行われております。このような九州から生まれる新たなチャレンジに対して、財政面に限らないあらゆる視点からしっかりと支えてまいりたいと考えております。
バリアフリーの観点からは、高齢者や障がいをお持ちの方々にもストレスフリーで快適な旅行環境を実現するため、令和3年に九州各県のバリアフリー旅行相談窓口のネットワーク化を図りました。今年も、このようなユニバーサルツーリズムの取組を更に進めてまいります。
持続可能性の観点からは、交通分野における脱炭素の取組が重要です。2050年カーボンニュートラルや気候危機への対応など、「国土交通グリーンチャレンジ」に沿って、自動車の電動化への対応、デジタル技術を活用したスマート交通やグリーン物流の取組を分野横断・官民連携して進めてまいります。
近年では、都市部への流出や生産年齢人口の減少に伴い、地域における交通・物流の担い手不足が深刻化しています。
九州運輸局でも「働きやすい職場認証制度」を活用し、労働条件や労働環境の改善、運転者の確保・育成を推進しており、昨年は関係行政機関等とも連携しながら、「運輸・観光 女性活躍促進セミナー」や「トラックのお仕事セミナー」を開催するなど、雇用の維持・確保に向けた取組を行ってきました。本年も、感染の状況や各事業者における雇用の状況等を踏まえながら、運輸・観光業における人材確保に取り組んでまいります。
物流分野については、トラックドライバーの時間外労働規制による「物流の2024年問題」を踏まえて、「総合物流施策大綱」において示された3つの方向性、「①物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化」「②労働力不足対策と物流構造改革の推進」「③強靭で持続可能な物流ネットワークの構築」に沿って、大綱に基づく政策を着実に実施するとともに、九州の地域特性を踏まえたモーダルシフトの推進等の取組を進めてまいります。
海事分野については、本年においても造船・海運の競争力強化、船員の働き方改革、内航海運の生産性向上等を目指す「海事産業強化法」に基づく施策を迅速・適切に実施し、共同事業や事業再編、生産体制の見直し、次世代技術の開発等を通じて、海事産業全体で好循環を生み出すための取組を推進してまいります。
新型コロナウイルスによってもたらされた運輸・観光への影響は計り知れないものがあります。しかし、ようやく「ポストコロナ元年」を迎えようとしています。以上述べてきたような取組によって、運輸と観光で九州の元気を創ることができるよう、職員一丸となって取り組んでまいります。
結びに、新型コロナウイルス感染症の一刻も早い収束、そして、九州の発展と皆様方の御健勝と御多幸をお祈りして、新年の御挨拶といたします。